構造化コーディネート研究所(cc−labo)

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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』4/30号 柴山桂太@京都大学准教授です。

三橋貴明の「新」日本経済新聞』4/30号 柴山桂太@京都大学准教授です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 近く行われる大阪市住民投票は「特別区設置協定書」の賛否を問うものです。 http://www.city.osaka.lg.jp/senkyo/page/0000303691.html
特別区設置協定書」の全文はネットで公開されています。ここで書かれているのは、特別区の名称と区域(北区、湾岸区、東区、南区、中央区)、新たに設置される区議会の議員定数や報酬、特別区大阪府の事業分担や税限の配分などです。 http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/…/00163079/1%20hontai.pdf
住民投票で賛成多数となれば、2017年4月から、大阪市は五つの区に分割されることが決まります。今後2年間で、府と特別区の職員の割り振りや、府内のシステム構築、新庁舎の建築などが急ピッチで進むことになり、後戻りはできなくなります。日本有数の巨大な政令指定都市が解体されるかどうかが、一回の住民投票で決まるわけですから、大阪市有権者が背負う責任は決して小さくないと言うべきでしょう。 ここで重要なのは、かりに大阪市の解体が決まっても、大阪維新の会が提唱する「大阪都構想」がただちに実現するわけではない、ということです。 まず、大阪府の名称が「大阪都」になるには、国会で特別法を制定しなければならず、また今度は府民全体での住民投票を行う必要があります。 次に、大阪維新の会のプランでは、「大阪都」には大阪市だけでなく、隣接する10の周辺市(豊中市吹田市東大阪市、八尾市、堺市など)が参加するとされています。特に、重要なのは堺市の動向でしょう。堺市は2006年に、長年の悲願だった政令指定都市に移行したばかりです。かりに大阪市が解体されても、堺市が政令市として残り続ける可能性は十分にあります。 また先の市長選で、八尾市、吹田市寝屋川市大阪維新の推薦候補がいずれも落選しました。吹田市後藤圭二氏は当選後、「堺市、八尾市とともに都構想の防波堤になる」と語っています。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl…
したがって、今回の住民投票大阪市が解体されても、それだけで都構想が実現するわけではありません。五つの特別区への分割が行われる過程では、混乱も生じるでしょう。また、周辺市を取り込むには、新たなバトルがいくつも発生することも予想されます。物々しいニュースが続けば、大阪府民の間で、そのうち改革疲れがやってくるのは必至です。 推進派は「やってみなければ分からない」と言います。もちろんその通りですが、「大阪都」の実現に、膨大な行政コストと長い年月がかかるのは間違いありません。今回の住民投票は、それだけの混乱や負担に耐える意思があるかどうかを、まずは大阪市民に問うものとなります。 問題は、都構想に、それだけのコストに見合うだけの価値があるかどうか、です。「大阪都」になれば、大阪は本当に再生に向かうのか。この問題を冷静に考える上で、藤井聡著『大阪都構想が日本を破壊する』(文春新書)が行っている指摘は重要です。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4166610201
http://honto.jp/netstore/pd-book_27068478.html
藤井氏はこの本で、大阪市が解体されると、大阪の衰退はむしろ早まると警告しています。東京はこれからオリンピックでインフラの集中投下を進めますが、その期間を大阪はまるまる改革騒ぎで費やすことになります。本来は大阪市域に使われるべき財源の一部が大阪府全体のために使われることになりますが、その意思決定に旧大阪市民の声は届きにくくなるという問題もあります。 大阪市の持つ「都市計画=まちづくり」の権限が失われてしまうという指摘も重要です。五つの区と区議会が出来ると、市街地で戦略的なインフラ投資を行おうと思っても、区間の利害を調整する行政手続きがかえって煩雑化してしまうでしょう。 よく言われる「二重行政」の解消にしても、その効果は試算では年1億円程度と決して大きいとは言えません。反対に、新システムへの移行には初期費用として600億円から800億円がかかると試算されており、むしろ財政が悪化する懸念があります。 「大阪都」がモデルとしているのは東京都ですが、東京都がそんなに立派な大都市行政を行っていると言えるのかは疑問と言わざるをえません。これは東京都に住んでいる(住んだことのある)人間なら、誰しも感じることのはずです。 例えば、橋下市長は府市の二重行政で無駄な開発が横行したと繰り返し語っていますが、東京都でも乱開発が起きたのは、90年代の都市博騒動を見ても明らかです。バブル期には全国でずさんな都市計画が行われましたが、東京都も例外ではありませんでした。時代の空気に流された乱開発は、府市制でも都区制でも起きたのです。「大阪都」が巨額の予算を投じて行う開発(例えばカジノ誘致)が、「無駄な開発」にならないという保証はどこにもありません。 もちろん、制度を変えればすべてがうまくいくなどという幻想は、都構想推進派も持ってはいないでしょう。ただ、自治の長い歴史を持つ市を解体することで失われる経験の蓄積や、システムをまるごと設計し直すことによって生じる行政の混乱は、推進派が見積もっているよりもかなり大きいはずです。 いずれにせよ、住民投票で賛成多数となれば、大阪市解体は既定路線となります。都構想は、その数あるデメリットを足し合わせてもなお、メリットの方が大きいと言えるのか。一度決まったら後戻りできない以上、今回の住民投票が大阪の未来にとって重要な岐路となるのは間違いありません。